September 02, 2006

バリには赤ちゃんを狙う「悪いモノ」がウヨウヨといます。
赤ちゃんがしてはいけないこと、
赤ちゃんを守るためにすべきこと、がいろいろあります。

その一つに、外出の制限があります。
出産後は母子共々、赤ちゃんの臍の緒が取れるまで外出できません。
赤ちゃんについては、生後42日目の儀式が過ぎるまで外出できません。

もっとも今は、バリでも病院での出産が一般的になりましたので、
外出制限は、病院から自宅に戻ってからスタート、ということになります。

「子供を生んだら、しばらく外出はできない!」
ということがわかっていたので、育児グッズや日常品なども、
「もしかしたら要らないかも。でも、しばらく買い物に行けないし」と、
出産前から、神経質なぐらいになって揃えました。
まるで、ニュピ前の買い出しみたいです。
1日出掛けられない、料理ができない、というだけで、
前日のスーパーマーケットは大混雑、
買い物カゴに大量の食料を詰め込んだ人々がレジに長い行列を作りますが、
あれと同じ心理だった、という気がします。

それでも、実際に出産してみると、足りないものもいろいろ出てきましたが、
「病院から自宅に戻ったら、もう籠の鳥」と、
入院中に、病院併設のスーパーや子供用品ショップで買い求めました。
出産直後の自分と、生まれたばかりの自分の子供の使うものは、
バリ人の誰かに頼んで買ってきてもらっても、
「一生懸命探してくれた気持ちはありがたいけど、これじゃちょっと・・・」
ということになるのが明白だったので、
病院併設のお店では限界があるにせよ、
自分の目で見て、自分で選びたかったのでした。

そして、自宅に戻ると。
夫の兄が首を吊って、死んでいました・・・
(もう少しで、卒倒するところでした)

この兄の自殺については、ここでは詳しく書きませんが、
人死にが出ると、親戚はもちろん、バンジャール(地域共同体)の人々が、
続々と集まってきます。

出産直後の母子は、
大勢の人々の前に身を晒してはならない、そうです。
これは外出を禁じる理由と同じで、
要するにマジックにかけられるのを避けるためです。
大勢の人の中には必ずマジックを使う人がいる、
マジックは弱い存在にかかりやすい、というのはバリの常識です。
出産直後の母親、生まれたばかりの赤ん坊は、とても弱い存在であり、
同時に、マジックの標的になりやすい存在でもあります。

勿体を付けずに言ってしまえば、弱くて病気になりやすいから、
ちゃらちゃらと出掛けたり、人混みに潜り込んだりするな、
ということなんでしょうけれど。

「出産直後の母子は外出禁止」と言っても、
本来ならば、家の敷地内であれば出ることができるのですが、
私の場合は、兄の死によって家に大勢の人が出入りしていた関係で、
自分の部屋から一歩も出てはいけない、と厳命されました。
三度の食事は、手伝いに来ていた叔母が部屋まで運んできてくれる、
ちょこっと、テラスに出て親戚と話していても「戻りなさい」と叱られる、
そんな状況でした。

それが、娘の臍の緒が取れるまで続きました。
娘の臍の緒が、これまた、すぐには取れず、
生後12日目の儀式が過ぎてから、ようやく取れました。

地域によっては、生後42日目の儀式がすむまで、
赤ちゃんだけでなく、母親も外出できないところもあるようですので、
それに比べたらマシかも知れませんが、
「家」どころか、「自分の部屋」から出られない、
しかも、兄の死を嘆く家族の泣き声を聞き続けている、というのは、
やはり、尋常な状態ではなかった、と思います。

たまたま、日本から来ていた友人が、
頼んでおいた「SMAP×SMAP」「西遊記」の録画テープ(※)を、
3倍モード6時間×数本、持ってきてくれてたので、
まだ眠ってばかりの娘を横に置いて、延々と見続けました。
夫は兄の仮埋葬準備で多忙を極め、
「座敷牢」には寝るためと泣くために帰る程度、
一人で何もせずにいると、頭がヘンになりそうだったのです。
でも、部屋の外で起きていることと、画面とのギャップの大きさに、
笑えるはずのところで笑えず、笑えないところで無意味に笑ったりと、
やはり、少し頭がヘンになりかけていたのかな?と、今にしては思います。

 (※)わたしよりも、うちの夫が、SMAPのファンなんです・・・

-----------------------------------------------------
初出:2006年9月02日
再録:2007年1月27日
-----------------------------------------------------